実習
「今日、お母さんと私とで恐い夢を見たから、
バアバの家に行くことにしたよ」
と娘が母に電話を掛けました。
電話を切った娘は、
「バアバ、すごくヤバい感じになってたよ。
ものすご~く、憑りつかれている感じだった。
今日は来ないでって言ってたけど、行った方がよさそうだ」
と言いました。
実家へと向かう車の中で、
私の携帯電話に母からのメールが入りました。
どうせまた、私を傷つける内容のメールに違いないのです。
「図々しい、来るな」だとか、
私がげんなりとへこんで、
もう一生おまえのところになど行くものかと思わせる内容に、
違いないと思いました。
言わずとも事情を知りつくしている娘が、
「私が読むからお母さんは読まないで」
と言って、
母からのメールを私の代わりに読みました。
「要するに、来ないでほしいってことが書いてある。
でもお母さん読んだら傷つくから消しておくよ。
バアバに憑りついた魔物が、
お母さんを傷つける方法で祓われないようにしてるだけだよ。
こんな罠でくじけていたら、
この先他人のお祓いなんてできるようにならないよ。
バアバが練習台と思って、ここは図々しく押しかけよう。
得度したんだから、研修、いや、実習ですよ、瑠史さん」
娘にそう言われて励まされた私は、
自宅へ引き返すことはやめて、実家に向かい続けました。
その間、何度も何度も母からのメールを受信しましたが、
その都度娘が読み、黙って消していたようでした。
実家へ着くと、
しかめっ面の母が家の中から顔を出しました。
「何しに来たんだ」
と、その表情は語っていましたが、
庭をぐるりと塗香で清め歩きながら、真言を唱えました。
夢の中で、隣家の伯母が生霊を捨てて行った玄関周りは、
特に念入りに清めました。
そして実家に上り込み、さっさと観音様の前に座り込んで、
護身の印を結びました。
すると母と娘も私の後ろへ座り、
経本とお数珠を手にしたので、
母との何の会話もないまま、私は読経を始めました。
母と娘も私に続き、読経を始めました。
読経が終わると、母の表情は途端に明るくなり、
「ねえ、夕飯食べていけるでしょう?!
あんた20歳になったのよね、飲もう飲もう!」
と言い出し、
すぐに帰るつもりでいた私と娘は強引に茶の間へ押され、
母はあっという間に食事を作り、
テーブルへと並べていきました。
「だいぶ静かになったんだけどね、
隣だけがうるさいの。夕方になると出てきて、
うちの周りをうろうろして嫌なことばっかり言うのよ。
うちにゴミまで捨てていくし、もう我慢の限界だったの」
娘と一緒にお酒を吞みながら、母が言いました。
ゴミを捨てていくなんて、
母の妄想がエスカレートしているのだと思い辟易していた私でしたが、
どうにもこうにも、
私の見た夢の内容とつじつまが合うのです。
私はもう、母の言っていることをただの妄想と片付けることは、
出来ないと思いました。
実家に塗香を撒いているときにも、
玄関周りを清めた時には謎の鳥肌が立ち体が冷えて、
真後ろに男の人が立って私に息を吹きかけているような気がして、
ゾッとして観音様の元へと逃げ帰ったのです。
「今日はお経を読みに来てくれてありがとう。
すごく気分が良くなったよ」
明るくなった母に見送られ、
私と娘は実家を後にしました。
「お経を読んでいるとき、
男の人が様子を見に覗きに来ていて、
振り返ったら目が合ったの。
そうしたらお母さんが急に咳き込んで、
あのときお母さんの背中に、
たくさんの人がワッと集まってもたれ掛ってた。
背中を払ってあげたかったけど、
読経中だったから触っちゃダメかなと思って、
手を出さなかったんだ」
帰り道に娘がそう言いました。
読経中に突然喉が詰まって、息ができなくなり、
咳き込んでお経が読めなくなったのです。
「印を結んで護身していおいてよかった」
と思いました。
今までのように中途半端な気持ちでは、
実家を含む危険な場所には出かけられなくなったのだと、
身の引き締まる思いがしたのです。
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プロフィール
Author:瑠史
自宅に、聖観音、十一面観音をお祀りして、かんのんいんを開いています。
第三子を妊娠中に出家得度して尼となり、OSHO禅タロットを使った個人セッションを受け付けています。過去から未来までを見通し、人生を変えたい方のお手伝いを致します。
ココナラさんでメール相談開設しています。
(「瑠史 人生相談」でご検索ください)
https://coconala.com/
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